干物ハニーと冷酷ダーリン


『川本、何か食ってくれば?』


ほとぼりが冷めだろう頃合いに編集部に戻ったあたし達。


「いえ、今日は定時で帰るつもりなので、それまで我慢します」



あと、三時間。
グーグーきゅるきゅる鳴っている虫をどうにか黙らせながら、溜まっている仕事に集中した。












人間、集中力を高め続ければ気絶する事なく乗り越えられるのである。

その分、切れた時の疲労感がとてつもなく襲いかかってくる。

もう、無理です。あたし本当にこれ以上は無理です。


デスクに突っ伏し時計を見ると、定時を少し過ぎた頃だった。




「……黒崎さん、あたし帰ります。今日はもう帰ります」


鞄を肩に引っ掛けて席を立つ。


『おー。お疲れさん』


のそのそ歩きながら、挨拶をして編集部を出る。


研修中の高橋さんは、きっちり定時あがりなので一足先に退社している。

水城さんは、何処に行ったのかデスクには居なかった。

まぁ、ホワイトボードで帰ったと分かるので、問題はないのだけれど。



帰り道、コンビニに寄ってお弁当を買おう。
それを食べたらお風呂に入って寝てしまおう。

ああ、ちゃんとスマホをマナーモードにしてから寝ないとなぁ。


グダクダと考えながら、出版社を出た時。


あたしは、瞬時に柱の影に隠れた。




< 209 / 361 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop