干物ハニーと冷酷ダーリン
『川本、何か食ってくれば?』
ほとぼりが冷めだろう頃合いに編集部に戻ったあたし達。
「いえ、今日は定時で帰るつもりなので、それまで我慢します」
あと、三時間。
グーグーきゅるきゅる鳴っている虫をどうにか黙らせながら、溜まっている仕事に集中した。
人間、集中力を高め続ければ気絶する事なく乗り越えられるのである。
その分、切れた時の疲労感がとてつもなく襲いかかってくる。
もう、無理です。あたし本当にこれ以上は無理です。
デスクに突っ伏し時計を見ると、定時を少し過ぎた頃だった。
「……黒崎さん、あたし帰ります。今日はもう帰ります」
鞄を肩に引っ掛けて席を立つ。
『おー。お疲れさん』
のそのそ歩きながら、挨拶をして編集部を出る。
研修中の高橋さんは、きっちり定時あがりなので一足先に退社している。
水城さんは、何処に行ったのかデスクには居なかった。
まぁ、ホワイトボードで帰ったと分かるので、問題はないのだけれど。
帰り道、コンビニに寄ってお弁当を買おう。
それを食べたらお風呂に入って寝てしまおう。
ああ、ちゃんとスマホをマナーモードにしてから寝ないとなぁ。
グダクダと考えながら、出版社を出た時。
あたしは、瞬時に柱の影に隠れた。