干物ハニーと冷酷ダーリン
逃げた先に
【黒崎side】
川本の様子が変だ。
いや、変なのはいつもの事だった。
それが最近、拍車をかけるようにあからさまに、おかしい。
「黒崎さん、気が散るのでこっち見ないで下さい」
『えっ、それ酷くない?俺、泣いちゃうよ』
「水城さーん!隣が五月蝿いので、席替えしたいです」
『ちょっ、ごめん。ごめんなさい、すみません』
鋭すぎる水城の視線をかわしつつ、即座に謝る俺。
俺、これでも副編集長。この中ではトップ2なのに。
可哀想じゃん、俺。
「黒崎さん、ショボくれてる暇があるなら仕事したらどうですか?締め切り間に合うんですか?今回は増刊号ですよ?ついでに来月は、企画号ですよ!」
『うん、そうだねー。俺、頑張るよ』
副編集長としての、先輩としての、威厳も格言もあったもんじゃない。
ごめんよ、こんな副編集長で。そして先輩で。
かたじけない。
きっと川本の変化など、6年間隣のデスクだった俺にしか分かるまい。
むしろ、俺だからこそこの変化に気づけたと言ってもいいくらいだ。
誰も、褒めちゃくれないから自分で自分を称えよう。
俺って、すげぇじゃん。
やれば出来るじゃん。
よっ!副編集長!!
・・・・・とても虚しくなった。
ので、やめた。