干物ハニーと冷酷ダーリン
"はい?アンタがこんな時間に電話なんて珍しいね。今日は早く帰れたの?"
「え、あーうん。先生の所行って直帰してきたから」
と、言ってもすでに21時を過ぎている。
"で?なんかあったの?"
「あのさ、驚かないで聞いて欲しいんだけど…」
"今さらアンタから何聞いたって驚かないわよ"
いや。これは誰が聞いても驚く。もしくわ冗談でしょー、と爆笑される。
「言っておくけど、ドッキリでも冗談でもないから」
"あー、その話長くなる?なるなら出来るだけ手短にお願いね"
全くもって酷い奴である。
でも、まぁこんな話、咲子にしか出来ないし。
何にせよ、背に腹は代えられない。
アドバイスも解決法も得られるとは思わないけど、咲子に事の全てを一通り話した。
"へぇー。いいんじゃない?付き合えば?"
「…はっ?」
"いや、だって考えてみなさいよ。アンタ一生恋愛しないつもり?結婚もしないの?1人で孤独死でもすんの?"
"いい機会だから言わせてもらうけどさ、いつまで過去の事引きずるつもりなの?もうあの頃のアンタじゃないんだし、何より環境も変わってるんだよ?怖がる事ないじゃない"
咲子の言う通り、今は学生だった自分でもないし取り巻く環境もあの頃とは全く違う。
それは分かってる。分かってるけど……怖い。
"それに、もう2度とアンタが傷付ける事もないんじゃない?あの鬼編集長さまなら"
電話をしてから、30分は経っていた。
何だかんだ、あんな事言ったって長話にも付き合ってくれた咲子。
あたしの過去のトラウマも知っている咲子。
知った上で言葉はキツイもののしっかり聞いてくれた咲子。
そんな咲子に最後「結婚しよう」と言ったら、ぶちギレられたあげく電話も切られた。