干物ハニーと冷酷ダーリン
着いた先は、駅に近い小さな広場。
ただベンチが2つあるだけの空間。
『そんなに、長くなる話でもないですよね?まだ終電の時間まで余裕があります』
相崎さんは、こんな時でもにこにこと爽やかな笑みを作る。
この街に、住んでるはずの相崎さんが終電の心配などしないだろう。
それは、あたしに向けた言葉でどこまでも優しい人。
なのにあたしが臆病だった故に、彼を傷付けた。
「相崎さん、ごめんなさい」
『それは、俺を振った事への謝罪ですか?でしたら、そんな必要はないです』
「違うんです!そうじゃなくて、、、」
しっかりとあたしを捉える相崎さんの瞳を、あたしは反らさない。
「あたし、相崎さんに嘘をつきました」
『嘘?』
「本当は、嘘なんです。水城さんは彼氏なんかじゃないんです。彼氏がいるなんて、嘘なんです」
何も言わずにただあたしを見てるだけの相崎さん。
その表情からは彼が何を考えているのか読み取る事が出来ない。
あたしと相崎さんの間には、静寂した空気が流れるだけ。
相崎さんがあたしを見る。
あたしも相崎さんを見る。
暫くの沈黙の後、先に言葉を漏らしたのは相崎さんだった。
『知ってましたよ、そんな事』
「えっ、、、」
『川本さんは、正直な人だから顔に出てましたよ』
カタカタと肩を震わせながら、小さく笑う。