干物ハニーと冷酷ダーリン
『おっ?その反応、やっぱり最近川本が変なのって水城が原因なんだ?』
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる黒崎さん。
この人、絶対何か知ってる。
「……別に可笑しい所なんてないですよ。あたしは至って普通です」
『そんな事言って、この俺を欺けると思ってんのかー!隣人6年の観察眼なめるなよー』
普段へらへらしている黒崎さんだけど、人を見る目と小さな変化にも気付ける目配りはあたしが一番よく知っている。
だから、副編集長の座にいるのだと編集部のみんなもしっているくらいだ。
黒崎さんには、誤魔化しなんて効かない。
「……あたし、さっきまで相崎さんと会ってたんです」
コッペパンの食べかけの断面を見ながらポツリと呟く。
黒崎さんは、さして驚きもせずに空を見上げながら、へぇーと相槌を打つ。
その黒崎さんからかもし出される独特な雰囲気に、あたしは今まであった事を全て話してしまった。
相崎さんの告白をちゃんと断ってきた事。
あたしが恋愛に臆病になっていた事。
そして、その理由も。
途中で人がこんなに真剣に話をしているのに、小さくアクビをする黒崎さんを殴りたくなったけど、
あー、飲み過ぎたかなぁ。リバースしそうとうずくまった黒崎さんを、蹴飛ばしたくなったけど、
そんないつもと変わらない黒崎さんを見て、どこか吹っ切れたように心が澄んでいくのが分かる。