干物ハニーと冷酷ダーリン



『おい!こら、止まれ』


背中から聞こえる間違いようのない水城さんの声に、逃げ腰だったあたしの足はピタリと止まる。




「あ、、、どうも。こんばんは」


なんともチキンなあたし。
声が若干震えた。




『黒崎から連絡があった。こんな時間に何しにきた』



黒崎さん、水城さんに連絡したならいっその事、用件まで伝えて欲しかった。

中途半端な手助けなら、いらないです。




「いや、あの、そのー、、、水城さんに伝えなくちゃと思いまして………」


『言ってみろ』



手の届く距離まで歩み寄ってきた水城さんはただあたしからの言葉を静かに待つ。



伝えないと。

その為にあたしはここに来たんだ。

咲子にも相崎さんにも黒崎さんからも背中を押してもらったんだ。




「あの、あたしが編集したストーリー展開の確認をお願いします!」



大丈夫、大丈夫。あたしは編集者だ。

そして相手も編集者。それも編集長だ。

あの時と全く設定も環境も違う。

大丈夫、大丈夫。



グッと掌を握る。



「あの後の展開するストーリーは、水城さんはあたしの事が好き。あたしなら、そう編集します」




あたしのトラウマ。

それは、編集者を目指していた学生の頃。

勇気を出してあたしに告白しようとしてくれた男の子の心を先読みして断ったあげく、少女漫画ならこんな告白シーンにした方が女ウケがいいから、次に告白するならそうした方がいい。

などと、身勝手なアドバイス。



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