干物ハニーと冷酷ダーリン
『川本さぁ、本当はこんな事言いたくないけどね、アホだよね』
「ん?」
『いや、それ自体はとても素晴らしい心掛けだと思うよ。思うけどさ、オタクら一体いくつよ?いい大人が揃いも揃って青春を謳歌してるんじゃないよ』
「…………」
『そんなね、悠長な事言ってたら水城なんてあっという間に40よ?川本だって30よ?別にね、無理に好きになれなんて言わないけどさ、俺としてはどうなの?って思うわけよ、分かる?』
「……はあ」
『もうはっきりと言っちゃうけどさ、そんなんだったら付き合ってみても変わらないと思わない?そりゃあ、川本は恋愛ベタかもしんないけど、水城だって子供じゃないんだから全然任せればいいじゃん。あいつが何とかしてくれるでしょ』
「…いや、あの、黒崎さん。落ち着いて」
説教でもされてんじゃないか?くらいなトーンで淡々と話す黒崎さんは誰も止められない。
まるでブレーキのない車の如く、内容が暴走しまくっている。
『そんな暢気に構えてたら、水城取られちゃうぞ!それでいいの?』
「……それは、、、、困ります」
『でしょー?そう思ってるなら、捕まえておきなさいよ。気持ちはそれからでも追い付いてくるもんよ。恋愛っつーのはさ』
暴走していると思っていた黒崎さんに、最後は諭された。
黒崎さんはたまに心に響く事をさらっと言ってくれるもんだから、影響力が半端ない。
恐るべし、副編集長の底力。
定食屋さんを出る時に、ポロッと本音を漏らしてくれちゃった黒崎さん。
水城に彼女が出来れば、俺のモテ期がやってくる。
早く捕まえてよ、川本!水城のために、何より俺のために!
それは、聞かなかった事にした。
折角の良い話が台無しだ。