干物ハニーと冷酷ダーリン
それには水城さんも慌てた様子で、お母さんも"あなた、タイミングが違うわ"とお父さんの頭を持ち上げた。
『挨拶が遅れて申し訳ありません。かなでさんとお付き合いをさせていただいてます水城禅と言います。今日こちらに伺ったのは....』
「聞いてるわよー。同棲の挨拶よね?そんな堅くならないで、むしろ安心したわ。ねぇお父さん?」
『そうだな、これで気苦労が一つ減ると思うと白髪の進行具合も良くなるな』
あたしに引き続き、水城さんの話もぶっちぎった母はお父さんまでも巻き込み、あーだこーだと盛り上がり水城さんとあたしは置いてけぼりを食らった。
最後には、"何も出来ないただ笑ってるだけが取り柄みたいな娘ですが、どうか、どうかよろしくお願いします"
と、水城さんにお父さんとお母さんは深々と頭を下げていた。
だから、電話でもいいって言ったのに。
しっかり者の水城さんは、いつ用意してたのか手土産も準備していたようでテーブルに出してきた時にはかなりビビった。
それも銘菓のちょっとお高いやつ。
あたしだって食べた事ないのに!
それからは、あたしそっちのけで話に花を咲かせまくってるお三方を小一時間眺めていた。
やれ、息子が欲しかっただの。
その話はまだ先だの。
捨てられないようにすれだの。
出来るだけ早く孫の顔が見たいだの。
途中からあらぬ方向に話がすっ飛んでった時にはぎょっ!っとした。
あれ?これただの同棲の挨拶、結婚じゃないでしょ!
何、息子って?何、孫って?
これには水城さんもさぞ困り果てているだろうと思って身を乗り出しぎみに話をぶったぎってやろうとしたら、
『もちろん、結婚を前提に考えています。』
と、水城さんは平然と言ってのけた。