干物ハニーと冷酷ダーリン
えっ、やだやだ。
何?寒い寒い。
そして、怖い。
『おい、さっさと準備しろ』
部屋の中は暗いはずなのに、しっかりあたしの顔をとらえた水城さんの視線は眠気もすっ飛ぶほど鋭かった。
何がなんだかさっぱりなあたしは命じられた事をなすほかない。
何故ならば、既に水城さんがタクシーを呼んでいるからである。
これは、出勤の時間だ。
顔を洗いに洗面所に向かうなか、ちらっと時計を見れば、4時30分を少し過ぎていた。
いや、身間違いで5時30分だったかも知れないが今はそれどころではない。
水で顔を洗い、寝癖のついた髪を一つに束ねる。
問題ない。
自室に戻り寝間着から、寝間着っぽい薄手のトレーナーとスキニーに着替えた。
やっぱり時間は、4時35分を指していた。
タクシーもあたしの早業準備にはついてこれないのか、到着するまでにトイレまで済ませてやった。
準備が早くて助かる。と、水城さんに褒められたくらいだ。
褒めるなら、違う事で褒められたかった。
起こされ家を出るまでにかかった時間。
僅か6分。
洒落っ気も化粧っ気もない女の準備にかかる時間はこんなもんである。