女嫌いと男性恐怖症

 部屋を出て、エレベーターに乗る晶は、直樹の忠告を無駄にしてしまったことを悔やんでいた。

 それでも、どうにもできなかった。
 こちらから連絡したくもなければ、会いたくもなかった。

 ただどうにもできないことだけは、分かっていた。

 マンションのロビーで待っていた沙織は、清楚なお嬢様風な格好だった。
 実際にお嬢様なのだろう。
 しかし、晶はなんの興味もなかった。

「お久しぶりです。お会いしたかったです」

 恥ずかしそうに言った沙織に、近づくのさえ嫌だった。

 近づくだけで化粧臭くてたまらないし、いいと思ってつけているのであろう香水の香りには、嫌悪感しか感じない。

「行こう」

 なんの感情も入れずに、声を発する。
 不快しかないのに、それでも無視できないのは母親の息のかかった者だったからだ。

 クソババアと言いながらも、晶は母親の支配下から逃れられずにいた。


 決められたように、高級レストランに行く。

 きっと格別な味なのだろうが、なんの味も感じなかった。
 ただただ、やり過ごすしかなかった。

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