女嫌いと男性恐怖症

 どんだけ酒に飲まれてるんだ。
 そこまで思って、昨日の直樹の言葉を思い出す。

 酔った勢いで。
 クソッ。何を言えっていうんだ。

「大事なものを忘れてしまって、取りに帰っただけです」

 晶と会話をしても、過呼吸が出るほどのやばさは感じなくなっていたが、よそよそしさは感じた。

 警戒するように一定の距離を保ち、それ以上近づいてこない。

 すぐにでも出て行ってしまいそうな遥に「行くなよ」の言葉が、口先まで出そうになる。

 目の端に映る小さな姿を、愛おしいと思うなんて、どこまで俺は酔っ払っているんだ。

 バタンと玄関のドアが閉まる音がして、シーンと静かな何日か前の、遥が来る以前のマンションに戻ってしまった。
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