女嫌いと男性恐怖症

 時間を空けない方がいいだろうということで、今日すぐにあの人に会うことになった。

 直樹に電話すると「事務所で良かったら、陽菜と一緒にいてくれて構わない」と言われた。

 仕事用のPHSを出すと、嫌々ながらに意を決して、電話帳から「あの人」を選択した。

「はい。沙織です。晶さんから、お電話なんて珍しいですね。初めてじゃないですか?」

 電話口で嬉しそうな声に、胸クソ悪くなるが、そうも言ってられない。

「会って、話したいことがあるんだ」

「お義母さまから伺いました。旅行のことですよね? 結婚前に行っていいのかなって、思っていたんですが」

 言葉とは裏腹に楽しそうな声に、不快感が押し寄せる。

「違うんだ。そのことじゃない。今から時間ないか。わずかな時間だ」

「はい。大丈夫です」

 家事手伝いらしい沙織は、こんな時間でも会えると言う。どんだけ箱入りのお嬢様なのかと、吐き気がした。
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