女嫌いと男性恐怖症
フッと笑みがこぼれると、沙織は確信したように口を開いた。
「そうですか。前にお会いした時に穏やか雰囲気だったのは、その方のお陰だったんですね。私といる時には、そのようなことは一度も。それはそうですよね。今日初めて晶さんが、ご自分のことを「俺」なんて言うことを、知ったくらいですから」
寂しそうな顔をする沙織に、少しだけ悪いことをした思いになった。
俺とさえ口にしないほどに、話してもいなかった。
前の自分だったら、そんなこと思いもしなかったかもしれない。
穏やかになったと言われたが、本当にそうなのだろうか。
「悪かった。俺はもう行く。ここで好きに過ごしてくれ」
「でも」
「これくらいのことしか、できないんだ。遠慮しないでくれ」
一万円札をテーブルに置いて、そのままカフェを後にした。
寂しそうな視線を向けている沙織を、振り返ることはなかった。