女嫌いと男性恐怖症

 そこからは何をどうしたのか、全く覚えていなかった。

 晶は病室にいた。
 目の前には、沙織が寝ている。

 ここに来る少し前。

「どの面を下げて、ここへ来たんだ。お前のせいで! 沙織は!!」

 ひどい剣幕で、沙織の父親らしい人に罵られる。
 晶は何も言い返せず、ただ青い顔をさせていた。

「あなたここは病院ですから、もう少し冷静になってください」

 隣で沙織の母親らしい人が、泣きはらした目で父親に訴えている。

「うるさい!沙織が、沙織が」

 つらそうに顔を歪め、父親もかなり泣いたようだ。
 そして今にも泣き出しそうな真っ赤な顔が、晶を睨んでいる。

「でも沙織が、晶さんにお会いしたいって言っているのよ。会わせてあげましょう。晶さんが来るって言ったら、あの子。うぅ……」

 全部のことが、全て自分とは違う世界で起こっていることのような気がして、晶はひどく冷静にその様子を見ていた。

 そして何も声を発することはなく、両親に頭を下げて病室に向かった。
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