女嫌いと男性恐怖症
沙織は晶の様子に、何か感じ取ったように控えめに口を開く。
「私では、ダメなのでしょうか。晶さんの、側にいては」
しばしの沈黙のあとに、晶は口籠りながら話す。
「何も知らないじゃないか。俺が俺と言うことを、知らなかったほどに」
それなのに、こんな俺なのに、それでも側にいると言うのか。
沙織は優しく微笑んだ。
「知らなければ、今から知っていけばいいのではないですか?」
今から。
確かにこの人とは、何も始まってはいない。
どうせ仮面夫婦を装う、一歩手前だったんだ。
そして今なら、その仮面を外せるのかもしれない。
あたたかな温もりを知ってしまった晶は、もう一人で立っていられないほどに弱っていたことに気づく。
誰かと寄り添えたら。
晶に重ねられたままの手は、あたたかかった。
また見舞いに来る。
と、約束をしてマンションに帰った。
遥は騒ぎの中、陽菜たちの家へ行くことになっていたようだった。
誰もいない家。
晶は広い部屋で、否応なしに自分は一人なんだと思い知らされた。