女嫌いと男性恐怖症
第30話 失った心
次の日、見舞いに行くと、元気そうな沙織の姿があった。
晶をみつけて、嬉しそうに微笑む。
「晶さん。来てくださったんですね。もう本当は退院できるんですけど、お父様がこの際だから色々と検査してもらえって」
頬をむくれさせて言う沙織は、昨日見た時よりも幼く見えた。そういえば、歳さえも知らない。
入院は退屈なのだろう。
沙織は、いつもよりよく話した。
それとも今までは、晶から寄せ付けないオーラか何かを感じ取っていたのだろうか。
「お父様ったら心配性なんです。もう胃の洗浄もしたし、問題ないのに」
胃の洗浄。
その言葉に胸をズキッとさせると、沙織が急いで晶の手を握った。
「そんな顔なさらないでください。もう大丈夫ですから」
「あぁ」
無機質な声が出る。
わざと出そうと思って、出したわけじゃなかった。
感情がこもった声は、どう出すのか思い出せなかった。
そして時間が経つほどに、周りの音はまるで水の中で音を聞いているように、聞き取りづらく遠くに聞こえた。