女嫌いと男性恐怖症

「今からお仕事ですか?」

 沙織が、スーツ姿の晶に質問する。
 いつもの変わらないスーツだ。

「あぁ」

 晶の力ない返事をかき消すように、看護婦が声をかけてきた。

「検査に入りま〜す。面会終了してください」

 晶は沙織に軽く手をあげて帰ることを伝えると、病室を後にした。

 外に出ると、季節は秋から冬になろうとしていた。
 ついこないだまで、赤や黄色の葉をつけていた木々も寒々とした姿で立っている。

 その姿はどこか自分のようで、そのことに嘲笑さえする気にもなれず、うつむいて歩を早めた。

 晶には景色も全てが、ぼやけて見えるようだった。
 全てに、彩りがなくなってしまったように。

 ただそのことにさえ気づかないまま、心が麻痺してしまったように何も感じなかった。

< 217 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop