女嫌いと男性恐怖症
「おう。アキ」
事務所に行くと、直樹が変わらない挨拶をした。
陽菜は晶に遠慮して、来ていないようだった。
直樹は晶の母親とも、沙織とも面識があり、中立的な態度を見せる直樹に、晶の母親も沙織も信頼しているようだった。
何かあれば、直樹に連絡があった。
そんな直樹は、昨日の詳細を晶以上に知っているだろう。
それでも、そのことには触れてこなかった。
「夏休みの宿題は、やれず仕舞いだ。悪かったな。長いこと休んで」
「いや」
もう少し休んでもいいぞ。
そう言いたくなる晶の顔色だったが、家で一人にさせては、もっとまずいのは目に見えている。
ワーカーホリックに逆戻りだとしても、何かに没頭していたい気持ちは、直樹にもよく分かった。
直樹としては、晶が沙織と上手くいくのなら、そんな淡い期待も浮かんだが、今の状況を見る限りそうは思えなかった。
今はただただ晶が壊れてしまわないことを、祈ることしかできなかった。
晶はほとんどマンションに帰ることが無くなり、もちろん自炊することなど無くなった。
日増しに仕事に没頭していく晶に、異様さを感じるほどだった。