女嫌いと男性恐怖症

 晶はいつものように沙織と会うために、カフェに来ていた。
 今日は、自分の気持ちを話せる気がしていた。

 沙織は遅れてやってきて、席につくといつものように話し始めた。
 しかし、内容はいつもと違う内容を。

 沙織は、もう答えを出していた。
 会うたびに、無表情な顔と無機質な声の晶に。

「私、分かったんです。私は晶さんが好きだったわけじゃなくって」

 何を言いたいんだろう。
 俺は、また何かを失うのか。

 いや、そうじゃないだろ。
 それがなんだっていうんだ。

 晶は、自分自身を鼓舞した。

 沙織は、続きを口にする。

「晶さんが穏やかになられた、大切な人を想っていらっしゃる晶さんが、素敵に思えたのです」

 微笑んだ沙織はどこか寂しそうで、晶は何も言えなかった。

「もうお会いすることもないでしょう。さようなら」

 晶は何も発せないまま、沙織は去っていった。


 晶は、直樹に電話をしていた。

「あぁ。悪い。用事を済ませてから事務所に行く」

 それだけ伝えると、電話を切った。

 そして、電話帳の「ハル(クソガキ)」を表示する。
 まだかけたことのないそれを、選択しようと伸ばした指を戻した。

 まずはマンションに帰って、それからだ。

 晶はホテルに寄ってから、マンションに足を向かわせた。
 
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