女嫌いと男性恐怖症
第40話 好きな人
展望台の下から、子どもの声がした。
「ねぇお母さん。あの上で、ぎゅってしてるのが見えるよ〜!」
「こら。大きい声で、そんなこと言わないの」
「え〜だって〜。あれって「コイビト」って言うんでしょ?」
「もう、行きますよ!」
聞こえた可愛らしい会話に、フッと笑みをこぼすと遥から離れた。
「子どもがまだ遊ぶ時間だ。帰って家で話そう」
顔を上げない遥に、手をさしだす。
「ほら。手出せよ」
おずおずと顔を上げた遥は、泣きはらした目をしていた。
その姿にたまらなくなって、もう一度抱きしめる。
「帰るぞ」
そうつぶやくと、まだ離したくない遥から腕を離して、代わりに手をつかんだ。
小さい手。もう離したくない手。