女嫌いと男性恐怖症

 マンションのドアを開けると、ドタッと音がしたかと思うと、急いで玄関に駆けてきたのは遥だった。

「あ、あの。おかえりなさい」

 最後は消えそうな声で発した言葉に、
 あぁ。昨日の出かけ際に何か言いたそうだったのは、これか。やっぱり面倒くせーガキだ。
 そう心で悪態をつくと、仕方なさそうに口を開く。

「ただいま。」

 それでも心が温かくなるのは、もう晶も分かっていた。

 遥のうつむいていた頭が、嬉しそうな顔に変わって晶を見上げた。

「あの。アキは、仕事に行ったのかと」

 そういえば長期休暇をもらったことは、遥には話していない。
 説明するのも、面倒だな。

「弁護士ってのは、こんなもんだ」

 んなわけないが、遥は納得したようだった。

「そういえば朝飯はどうした? 俺は減ってるが」

 遥は、用事を任命されたロボットのようにピコンッと音が聞こえそうな動きをすると、「急いで支度します」とキッチンへ消えた。

「ハハッ。なんだありゃ」

 声を出して笑うと「アキのためでもある」という直樹の言葉が、頭に浮かんだ。

 チッ。直樹のやつ。
 そう思いながらも、心は穏やかだった。
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