女嫌いと男性恐怖症
「懐かしいなぁ。アキはそのカフェで、壁際の貴公子って呼ばれてたんだぜ。壁と、同化しようとしてたのにな」
「壁と同化?」
意味が分からない遥は、素っ頓狂な声を出した。
クククッと楽しそうに笑う直樹に、晶は不機嫌そうに席を立った。
「つまらん話だ。俺は部屋に戻ってる。ハルは、直樹なら平気だろ?」
え? という表情を顔に張り付かせたまま、遥はコクリと頷いた。
それを確認して、晶は部屋へ行ってしまった。
「ハハッ。アキは自分のことを言われるのが、嫌なのさ。でも話すのをとめなかったところをみると、遥ちゃんにずいぶん気を許してるね」
気を許してる。そうなのかな。
確かに今日のアキは、優しかった。
けれど。
普段から、必要以上には話さない晶。
今のように、不用意に晶のことを話したり詮索すれば、心が閉ざされる音が聞こえそうなほどに、遮断されてしまう。
「分かりにくいかもしれないけど、遥ちゃんは大丈夫だよ。俺からしたら女の子と話すのはもちろん驚きだし、出かけるなんて」
そこまで話して、ハハッと笑うと「そもそも一緒に暮らすなんてな」と、直樹は楽しそうだ。