女嫌いと男性恐怖症
直樹はそのまま、さきほどの貴公子のことを説明し始めた。
「アキは基本、静かに過ごしたいんだろうが、残念ながらあの風貌がそうはされてくれないよな」
遥はスーパーでの注目の浴び方を思い出し、納得する。
「あのカフェ。静かで気に入ってたみたいだが、なんせあの風貌だ。周りが放っておかなくてな。壁際の貴公子がいるって、人が押しかけるようになって、行けなくなっちまったんだぜ」
なんだか可哀想に感じて、しんみりしてしまった遥とは対照的に、直樹は楽しそうだ。
楽しそうな直樹は、さらに続けた。
「紛れようと、一番奥の壁際に座ったところで無駄なのにな」
またクククッと愉快そうに笑った。
仕事が、まだあるから。
と、直樹は帰っていった。
一人、ソファに座る遥。
「壁際の貴公子、かぁ」
直樹にとっては笑える話でも、遥にとっては晶が遠い存在のように感じて、寂しい気持ちになった。