ラブリー
春が好きだ。

学生の頃と違って環境がガラリと変化する…と言う訳ではないけれど、何となく気を引き締めて新年度も頑張ろうと言う気持ちになる。

だけど、今年度からはどうしてもそう言う気持ちになれない。

「池山さん、２年前の予算案の資料なんですけれども」

「ああ、それでしたら」

わたしの隣のデスクに座っていた池山佐和子（ｲｹﾔﾏｻﾜｺ）が小宮課長に呼ばれたので椅子から腰をあげた。

腰まであるサラサラのロングヘアーが特徴的な、例えるとするならば日本人形のように美しい彼女はわたしの同期で親友だ。

あー、わたしじゃなくてよかった…。

小宮課長のデスクに向かっている佐和子のキレイな後ろ姿を眺めながら、わたしは心の中で呟いた。

母方の祖母は京都の芸妓だと言う彼女は、幼い頃から日本舞踊を習っていたと言うこともあってかとてもスタイルがいい。
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