ラブリー
初めて訪れたT県は都会と田舎が共存している場所だった。

海に近いと言うこともあってか、潮の爽やかな風が吹いている。

「なかなか、いいところだね。

確かに開発地には持ってこいの場所だ」

駅を出ると、小宮課長は大きく深呼吸をした。

わたしと繋いでいる手はそのままで、離してもくれない。

「まずは予定地の方を見学して、その後でお昼ご飯を食べよう」

「はい」

わたしが返事をしたことを確認すると、小宮課長は手をあげてタクシーを呼んだ。

いつまで手を繋いでいるつもりなんだろう?

お試し期間でつきあっているとは言え、こんなことをする必要があるのだろうか?

「なずな、気分が悪いの?」

そんなことを考えていたら、小宮課長に声をかけられた。

「いえ、どこも悪くないです…」

わたしは首を横に振って返事をした。
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