完璧執事の甘い罠
「ひな様、お薬を塗らせていただいてもよろしいでしょうか」
身体のあちこちにできた擦り傷。
ひな様は、私の言葉に小さく頷いて答えてくださった。
「失礼します」
ひな様の細い腕を拾い上げ、手首にできた縄の跡に痣に効く軟膏を塗る。
その流れで、腕のすり傷の方には擦り傷用の傷薬を伸ばそうと触れた。
「いやっ、」
その瞬間、拒むようにひな様が悲鳴を上げ手を払う。
私が顔をあげると、ひな様はハッとしたように目を見開いた。
「あ・・・、ご、ごめんなさい・・・。なんでも、ないから」
「・・・代わりの者を呼んでまいります」
ひな様の心が拒絶しているのだ。
おそらく、“男”という存在を。
あの犯人と同じ男である自分を。
それに気づいたとき、どうしようもない虚しさが胸を襲う。
仕方のないことだ、それ程恐ろしい目に遭った。
自分が護れなかった結果なのだ。