完璧執事の甘い罠
勉強をして集中していれば、嫌な事も思い出す事もない。
私は必死になって本に目を落とした。
「本日はこの辺にいたしましょう」
どれくらい時間がたったのか、ジルがそう言って持っていた本を閉じた。
私は不安が胸をよぎり顔を上げる。
終わりたくない。
終わってしまえば、意識が他の方へと向かってしまう。
身体が震え、吐き気がこみ上げ泣き出したくなる。
全然立ち直れてなんかない。
「あの、ジル。レッスン遅れてるし、もう少し」
もっともらしいことを言ってみる。
「焦る必要はありませんよ」
ジルは、普段見せない微笑みを見せながらそう言った。
私はそれ以上わがままも言えなくて、口を噤む。
「夕食の準備が整うまで、ごゆっくりなさってください」
「うん・・・」
仕方なく本を閉じ、机の上を片付けた。