完璧執事の甘い罠
「消えないの・・・。あの男の厭らしい手つきが・・・、唇に触れた感触が」
「・・・っ、ひな様」
ジルがギュッと私を抱きしめる手に力を込めた。
「ジル、お願い・・・。忘れさせてほしい・・・」
「ひな様・・・、私は・・・」
「お願い・・・」
我儘を言っていることくらいわかってる。
でも、自棄になってるわけじゃない。
誰でもいいわけじゃない。
ジルだから・・・。
ジルなら・・・。
「ジル・・・。ジルに、してほしいの」
ジルは、戸惑っているのだろう。
黙ったまま、私に振れる手が少しだけ震える。
「一執事である私が、ひな様にそのようなことをするわけには」
身体をそっと離されると、はっきりとそう言われた。
受け入れてもらえるなんて、思ってはいなかったけれど。
拒まれれば、やっぱり傷つく。
ジルは、どんな時だって執事であろうとする。
真面目で、完璧な執事のジルだから、わかりきった答だった。