完璧執事の甘い罠
「な、なに泣いてんだよ!」
「え・・・?」
ギョッとした顔で慌てるノエルに、私は自分が泣いていることに初めて気が付いた。
少しでも、認められた。
それがこんなにも嬉しいなんて。
ここに来て、辛いことも悲しいことも、憤ることも苦しいことも短い間にたくさんのことがあった。
でも、ジルにノエルにヨハン、数えるほどだけれど大切だと思える人ができた。
居たいと思える場所ができた。
それだけでも、私にとってはかけがえのないことだった。
両親が死んで居場所がなくて独りぼっちだった私に。
優しく差し伸べてくれる手がある。
護ってくれる逞しい身体がある。
「なにを泣かせているのですか!」
突然聞こえてきた声に、驚く。
いつの間にかジルが部屋に入ってきていた。
「ッは!?ちがっ!」
「うぅっ、ノエルが・・・っ」
「は?お前、ふざけんな!」
私が冗談にそういうと、ノエルは慌てたように声を荒げた。
それを見てぷっと噴出して笑う。
泣きながら笑う私はとても滑稽だ。