完璧執事の甘い罠
「これ、お母さんだよね・・・」
「・・・はい。ひな様の母上、アリス様です」
ジルは誤魔化すでもなくはっきりとそう答えた。
誤魔化すことは無理でも、少しは表情が崩れるかと思ったけど最初の一瞬だけで。
「ジルは、お母さんの事が好きなの?」
「アリス様は、異世界で愛すべき殿方に出会われ結ばれたのでしょう。ひな様がここにおられるのですから」
「それと、ジルの想いは関係ないでしょう?」
誤魔化されたのだと気付いた。
それに流されてあげるほど私は優しくないし、余裕もない。
だって私だってジルが好き。
ジルにとっては、お母さんの娘でしかなくても。
「それを聞いてどうしたいのです?私がアリス様をどう想っていようが、ひな様へのお世話に支障はありませんし。アリス様はもういないのですから、どうにもならないでしょう」
「支障はある!」
私は詰め寄るようにジルに近づく。
ジルは、なにを思っているのかわからないいつもの完璧な執事の顔で。
「だって、だって、私、ジルが好き。だから、お母さんじゃなくて、私を見てほしい」
どうにかその顔を崩してみたくて。
崩してほしくて。
私はそう言っていた。