完璧執事の甘い罠


「これ、お母さんだよね・・・」

「・・・はい。ひな様の母上、アリス様です」




ジルは誤魔化すでもなくはっきりとそう答えた。
誤魔化すことは無理でも、少しは表情が崩れるかと思ったけど最初の一瞬だけで。



「ジルは、お母さんの事が好きなの?」

「アリス様は、異世界で愛すべき殿方に出会われ結ばれたのでしょう。ひな様がここにおられるのですから」

「それと、ジルの想いは関係ないでしょう?」




誤魔化されたのだと気付いた。
それに流されてあげるほど私は優しくないし、余裕もない。

だって私だってジルが好き。
ジルにとっては、お母さんの娘でしかなくても。



「それを聞いてどうしたいのです?私がアリス様をどう想っていようが、ひな様へのお世話に支障はありませんし。アリス様はもういないのですから、どうにもならないでしょう」

「支障はある!」




私は詰め寄るようにジルに近づく。
ジルは、なにを思っているのかわからないいつもの完璧な執事の顔で。



「だって、だって、私、ジルが好き。だから、お母さんじゃなくて、私を見てほしい」





どうにかその顔を崩してみたくて。
崩してほしくて。
私はそう言っていた。



< 156 / 357 >

この作品をシェア

pagetop