完璧執事の甘い罠
来た時と同じように馬車に揺られる。
車内には私とジルの二人きり。
とても気まずい空気が流れている。
熱が下がって、私が初めてジルに会うと、ジルは表情を歪め苦しそうな表情だった。
いつだって冷静で表情の変わらないジルとは思えないくらい。
それでも、ジルは何も言わず私もなにも聞けなかった。
「・・・ひな様」
しかし、しばらく揺られた頃ジルが躊躇いがちに口を開いた。
「なに?ジル・・・」
「体調が悪いことを、気づくことができず・・・。申し訳ありませんでした」
「・・・そんなの、別に気にしていないし。気づかれたくなくて隠してたのは私だから」
「どうして・・・」
ジルなら、きっとその事を気にしているんだろうってことは容易に想像できた。
ジルにとって、一番大切なのは執事として完璧を務めること。
一番気にするのは、執事としての仕事。
私の気持ちの事なんて、きっと、もうどうだっていいんだ。
だって、そうじゃなかったらどうして、なんて聞かない。