完璧執事の甘い罠
「言い方を変えるわ。命令よ、ジル。私を国境まで連れて行きなさい」
私はできる限り強気でそう言って、無理矢理に連れて行ってもらうことに成功した。
馬車に揺られながら私はぼんやり外を見ていた。
現実味がない。
これで終わりだなんて。
さよならだなんて。
「ジル。これ、ジルにあげる」
私はネックレスを取り出し同じ馬車の中にいるジルに渡す。
「ひな様?突然、どうしたのです?」
「これは、元々ジルがお母さんにあげたものなんでしょう?ジルが持っているのが一番いいと思うの」
「これはすでに、私の手を離れたもの。ひな様が持っているのが相応しいのでは・・・」
「私には、思い出があるから。これがあれば、ジルもお母さんのこと想えるでしょう」
強引にジルの手に待たせた。
これでいい。
ジルにはお母さんがいたらいいんだ。
お母さんの思い出があれば。