完璧執事の甘い罠
ひとりはまるでファンタジーに出てくる騎士みたいな恰好で、もう一人はきっちりとしたあまり見たことのない形のスーツ姿。
スーツ姿の人はその格好からも思うけれど、きっちりと紳士的に見えた。
“ひな様”
その人は私をそう呼ぶ。
様付けで呼ばれたことなんてないから少し変だ。
でも、自然とそう呼ばれるので悪い気はしない。
以前の私はそれをどう受け入れていたのだろう。
「失礼します、ひな様」
ノックの音の後に声がしてスーツ姿の人が姿を現した。
確か名前を、ジルさんと言った。
「・・・はい」
「気分の方はいかがですか?しんどいところとかは」
「・・・大丈夫です」
心配されることに慣れなくて。
私は少し居心地の悪さを感じながら答えた。
両親を亡くして、可哀想、だとか心配、だとかうわべだけでは何度も言われた。
それがすごく嫌で、嫌で、うっとおしいとすら思っていた。