完璧執事の甘い罠
ここは本当にお城で、本当に私の知らない異世界なんだ。
凄い・・・。
こんな事ってあるんだ。
信じられないことだけれど。
確かにこの身に起こったこと。
私は、確かにここで生きてたんだ。
どんな日々を。
どんな関係を築いて。
今日まで生きてきたんだろう。
なにを考え、どういう道を選んでいたの。
なにも、わからない。
なにも、覚えていない。
「――ひな様!」
ぼんやりと花を見つめていると、焦ったような声が聞こえる。
ジルさんの声だとすぐに気付いた。
「ジルさん・・・」
振り向くと息を切らしたジルさんが焦った表情で立っていた。
「どうしたの、そんなに慌てて」
「まだ万全じゃないんです!傷口でも開いたらどうするのですか!」
「あ・・・、ご、ごめんなさい・・・」
叱られ、私は肩をすくませる。
考えなしだったことに気づき、心配をかけたのだと今更思った。