完璧執事の甘い罠
――それは・・・。どうでしょう。今のひな様も、ひな様という事には変わりはないのですし。関係はこれからでもまた作り上げていくことは可能ですから
私の記憶が戻ってほしいかどうか聞いたときジルはそう言った。
その時は、なにも覚えていなかったからきっとジルは思い出せない私を責めないようにそう言ってくれたんだと思ってた。
でも・・・。
それは、ジルの本心だったんじゃないの?
私の気持ちに応えられないジルは、私が思いださない方が好都合だったんじゃ・・・。
元の、執事と主人の関係、ただそれだけの関係でいたかった。
きっと、そういうこと・・・。
そんなの、私が思いだして、ジルを好きだって気持ちさえも思い出してしまった私には苦痛でしかないよ。
どうせ叶わぬ恋ならば。
どうせ届かぬ想いなら。
いっそ忘れたままの方がよかった。
ああ、そうか。
そうしよう。
忘れたままでいればいいんだ。
思い出していないことにしよう。