完璧執事の甘い罠
テラスに連れられて行くと、そこはテラスというより普通の部屋くらいの広さのあるテラスだった。
「こんなところあったんだ・・・」
「はい。普段はあまり通らない場所なので」
そこで待っていたジルがそう答えてくれる。
ジル・・・。
忘れてしまった私に、ジルはとても優しい。
ほっとしてる?
私がジルのこと忘れて。
ジルへの想いも忘れて。
「ひな様?」
「えっ?あ、ごめんなさい。なんでもない」
ぼんやりしていたらジルが不安そうに顔をのぞかせる。
私は慌てて首を横に振った。
だめだ。
私は何も覚えてはいないのだから。
普通にしていないと。
また一からやり直すの。
ジルとの関係を。
ジルが望む関係へと。
ぎゅっと拳を下で握りしめた。