完璧執事の甘い罠
「ひな様、お疲れさまでございました。紅茶をお持ちしました」
いつものように中に入り、紅茶の用意を進める。
執事として。
「ありがとう。じゃあ、ジルも・・・」
「いえ、私は。・・・私は、執事ですから」
そういう私に、ひな様はひどく傷ついた表情を浮かべる。
結局私は、どうすることも、現状を変える手立ても持っていない。
私には執事としての立場しか、残されていないのだ。
「ねぇジル・・・」
「はい」
「私たち、もっと別の出会い方をしていたら、もっと違ったのかな・・・」
もっと別の出会い方。
例えばどんなものだろうか。
私が執事ではなくて、ひな様が姫ではない?
例えば、私がシーエン王国の王子であったら・・・。
そんなたとえ話など、したところで・・・。
「私たちには、この出会い方しかありませんよ」
私が執事で、ひな様が主。
きっと、それ以外にない。