完璧執事の甘い罠
「じゃあ、皆元気でね」
「これが最後の別れではありませんから。里帰りの機会はしっかり作るつもりなのでご安心ください」
ひな様とエリックさまが隣に並ばれ別れの挨拶を告げる。
見送りのために出てきた城の者たち。
私は、執事としてその場にいる。
綺麗に着飾ったひな様をこの目に焼き付けるため、目を反らすことなくその姿を見つめる。
エスコートされひな様が馬車へと乗り込み姿が見えなくなるまで。
「・・・お前ら、ほんとバカだよ」
「なんとでも言ってください」
「あいつもお前も、国のために犠牲になる必要なんて、ないだろ」
騎士として、自分の人生をかけているあなたに言われたくありませんよ。
そう思いながらも、口には出せずただ去っていく馬車を見つめ続ける。
「なんのために、俺は・・・」
ノエルの呟きも。
私はまた、聞かなかったことにするのだ。