完璧執事の甘い罠
「あの、何かご用があったのでは・・・?」
「ああ、ううん。この本が面白くて・・・。少し、はしゃいじゃっただけなの」
ジルには些細なことさえ話してた。
読んでいる本が面白いとか、つまらないとか。
庭で可愛い花を見つけただとか。
いつだってジルは冷静で、特別盛り上がることはなかったけど。
ちゃんと返事をくれて、私の話を聞いてくれるジルに話すことが私の楽しみみたいになってたんだ。
「ジルさまには及びませんが、僕も精一杯お仕えさせていただきます。代わりにはなれないかもしれませんが、なんでもお申し付けください」
「うん。ごめんね、気を遣わせちゃって。ありがとう」
ここにジルがいたとしても、それは執事として。
想いが通じ合ってから作っていた二人の時間も、ここではもう作れないだろう。
私は、エリック王子の妻になって。
ジルへの想いは消さなくちゃいけないのだから。