完璧執事の甘い罠


綺麗な噴水を眺め、エリックさまとの時間を過ごす。
本当に、綺麗。

ジルと一緒に見たかったな・・・。



無意識に、ふとそんな事を考えていた。




「あ・・・・・・」

「ひな様?」



思わず、ぽろっと零れた涙。
思わぬところでジルを思い出してしまって、感情が抑えられなかった。



「ご、ごめんなさい・・・。とても綺麗だなって思ったら、なんでだろう・・・」



慌ててごしごしと目元を拭いながら私は誤魔化すように笑った。
他の人の事を考えていたなんて言えない。

私は、ここでうまくやらなくちゃいけない。



国のために。
それはきっと、ジルのためにだってなるから。



「無理に止めようとしないで。ほら、目元が赤くなってしまって」

「・・・でも、」

「大丈夫だから。泣きたい時は、泣いたらいい。でも、一人では泣かないで。僕の隣で泣いてくれたらいい」




エリックさまはそう言いながら、取り出したハンカチで優しく抑えるように涙を拭いてくれた。
優しくしてもらう資格なんてないのに。
私は、エリックさまを好きにはなれない。



< 325 / 357 >

この作品をシェア

pagetop