完璧執事の甘い罠
私のこの両手には、今日城下で見た人々の命が、未来が乗っかってるんだ。
あの人たちが、この先もずっと笑って暮らせるかどうかは、王さまや、私にかかっているんだ。
「一国の姫って言うのは、そういうことだ」
「・・・うん」
「わかったか?だから、お前が傷つくべき場所はちがうってことだよ」
納得はできた。
私が護られる意味も。
私自身が存在する必要性も。
それでも。
「でもやっぱり、傷つかないなんて無理。だって、思うの。近くにいる人を大切にできないで、どうしてその他の大勢の人を大切にできるの?」
「は・・・?」
「なにかを護るためには、犠牲はつきものだなんて割り切れない。私のために傷ついた人がいるなら、私は悲しいよ」
誰かが傷つくのは嫌。
それが近い人なら尚更。
もう、誰も失いたくないの。
愛する人を、大切な人を、誰ひとり。
もうあんな思いはたくさんなの。
「優しすぎて、苦しくなるのは、お前自身だぞ」
「優しくなんて、ない・・・」
ただ、自分が傷つきたくないだけ。