副社長は束縛ダーリン

「朱梨ちゃん……?」と、訝しげに問う、誰かの声を聞き流していた。

泉さんの新作コロッケの二個目を食べつつ、妄想世界に頬を緩めたり、拳を握りしめて決意する私。

そこにドアの開く音がして、今日一度目の、悠馬さんの訪室があった。


「皆さん、お疲れ様です。
集まって試食会ですか?」


男性社員への牽制のためにやってくる彼に、班員たちはさすがに今は慣れた様子。

さりげなく輪を広げて、私との距離を取るのは、彼の嫉妬心を刺激しないためだろう。


近づいてきた悠馬さんの手には、円筒形のなにかが持たれていた。

挨拶を交わした後に、班長の三上さんが、「副社長、それはなんでしょう?」と質問している。

社内用の紳士的な笑みを浮かべている悠馬さんは、そのラベルを私たちに見えるように向けた。


「柚子胡椒こぶ茶です。北海道への出張時に、昆布加工業の……」


悠馬さんが北海道に出張していたのは、私の誕生日の十日ほど前のこと。

帰ってきた彼は、カニやホタテや、ウニイクラ、たくさんのお土産を持ってきてくれて、美味しく贅沢にいただいた。

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