副社長は束縛ダーリン

彼は私のお腹に手を当てて、腹筋に正しい力が加えられているのかを確かめてくれていた。

それはトレーナーとしての行動で他意はないと分かっていても、悠馬さんのムッとした顔が思い起こされる。

こんな場面を悠馬さんに見られたら、大変なことになりそう……。

内緒でダイエットして格好つけたいこともそうだけど、彼の嫉妬心を煽らないためにも、ここに通っていることは秘密にした方がよさそうだ。


真剣に腹筋に取り組む私に、トレーナーは「お客さんの名前、聞いていい?」と話しかけてきた。


「北朱梨です」

「朱梨ちゃんね。俺は早見(はやみ)。二十三歳」

「じゃあ、私のひとつ下ですね……うっ、お腹がキツくなってきました」


腹筋がプルプル震えて、悲鳴を上げ始めていた。

早見さんは指導してくれた後も、なぜか私の側から離れず、楽しそうな顔で関係のない話を続ける。


「年上だと思わなかった。二十か二十一くらいに見えた」

「それは、ちょっとショックです。大人っぽくなりたいんですけど……あっ、もうお腹が……」

「俺の方が歳下なのに、敬語はやめてよ。
朱梨ちゃん、この後、時間ある? 俺、二十時に上がるんだけど、その後ちょっと話さない?
飲みながらでも、ね?」


< 132 / 377 >

この作品をシェア

pagetop