副社長は束縛ダーリン
彼は私のお腹に手を当てて、腹筋に正しい力が加えられているのかを確かめてくれていた。
それはトレーナーとしての行動で他意はないと分かっていても、悠馬さんのムッとした顔が思い起こされる。
こんな場面を悠馬さんに見られたら、大変なことになりそう……。
内緒でダイエットして格好つけたいこともそうだけど、彼の嫉妬心を煽らないためにも、ここに通っていることは秘密にした方がよさそうだ。
真剣に腹筋に取り組む私に、トレーナーは「お客さんの名前、聞いていい?」と話しかけてきた。
「北朱梨です」
「朱梨ちゃんね。俺は早見(はやみ)。二十三歳」
「じゃあ、私のひとつ下ですね……うっ、お腹がキツくなってきました」
腹筋がプルプル震えて、悲鳴を上げ始めていた。
早見さんは指導してくれた後も、なぜか私の側から離れず、楽しそうな顔で関係のない話を続ける。
「年上だと思わなかった。二十か二十一くらいに見えた」
「それは、ちょっとショックです。大人っぽくなりたいんですけど……あっ、もうお腹が……」
「俺の方が歳下なのに、敬語はやめてよ。
朱梨ちゃん、この後、時間ある? 俺、二十時に上がるんだけど、その後ちょっと話さない?
飲みながらでも、ね?」