副社長は束縛ダーリン
一方、他の人たちには口々に「ありがとう」「よろしくお願いします」と声をかけられ、今さらやめたいと言い出せなくなってしまった。
最初は、大口契約を取って悠馬さんに褒めてもらおうとしていたけど、今は彼にだけは知られたくない気持ちでいる。
「頑張ります……」と引きつる笑顔で答えつつ、心の中で溜め息をつく私。
早とちりでユキ丸くんに立候補してしまい、尻尾を振り続けるだけの仕事なんて……いい女から、ますます遠ざかる話は、悠馬さんに内緒にしておこうと心に誓っていた。
それから二日後の木曜日。
今日は販促会で、私は普通に出社した後に、企画部の社員たちと社用車でコンベンションセンターに来ている。
イベント会場は三階にあり、バスケットボールのコートが四面は入りそうな広々とした空間には、各冷凍食品メーカーがブースを設けて、自社製品をピーアールしていた。
うちの社のブースは、会場の出入口に程近い好位置にある。
モニターで冷凍コロッケができるまでの工場の動画を流し、製品のパッケージを見栄えよく展示していた。
今発売中の製品だけではなく、古いデザインのパッケージもパーテーションに飾られて、ちょっとした博物館の様相だ。
もちろん、試食には一番力を入れている。