副社長は束縛ダーリン
この会場は火気厳禁ということで、油で揚げるタイプの冷凍コロッケは、別室で調理しなければならない。
揚げたてコロッケを来場者に食べてもらうために、企画部の人たちは会場と調理室を何度も往復して汗を流していた。
その企画部の人たちよりも汗だくで仕事をしているのは、この私。
前もって注意されていたけれど、着ぐるみの中は想像以上の暑さで、低温サウナに入っているみたい。
控え室に戻れる休憩時間は三十分おきに与えられていても、たった三十分がなんと長く感じられることか……。
ユキ丸くんの口に当たる部分は、メッシュ素材になっていて、そこから周囲が見えるようになっている。
狭く見えづらい視界の中で、会場内の壁の高い位置にあるデジタル時計を眺めては、次の休憩時間はまだかと、そればかり考えていた。
するとユッコにお尻を叩かれる。
「朱梨、尻尾を振るの忘れてるよ」
「あ、ごめん」
ユッコはビシッとスーツ姿で、試食品をのせたトレーを手にしている。
私は彼女の隣で、ひたすらお尻を振るのが仕事だ。
来場者は各メーカーが招待している取引先関係者の他に、事前にウェブで参加申し込みをした一般の人が三百人ほど。