副社長は束縛ダーリン

着ぐるみの中で肩を落としつつ、悠馬さんがイベント会場にいなくてよかったとホッとしてもいた。

今朝、さりげなく悠馬さんの今日の仕事予定を聞いてみたら、会議が三つも入っているから忙しいと言っていた。

二班の男性社員への牽制のために、今でも時々開発室に顔を出している悠馬さんだけど、『今日は行けそうにない』と、ありがたいことも言っていた。

念には念を入れて、『もし副社長が来たら、私はトイレに行っていることにしてください』と泉さんに頼んできたことでもあるし、私がイベント会場にいることは彼に気づかれないはず。

悠馬さんには、こんな格好悪い姿を見せたくないよ……。


私を攻撃する男の子が去っていった後も、来場者に尻尾を振り続け、遠くの時計をチラチラと見遣る。

今は十一時四十分で、次の休憩まであと十分。

早く着ぐるみを脱いで、涼みたい……そう思っていたら、後ろのブースの中で「お疲れ様です」と聞き慣れた声がした。

この声は……!?

ハッとすると同時に、「副社長、お疲れ様です」と答える企画部社員の声も聞こえて、勢いよく振り向いたら着ぐるみの頭が外れそうになった。

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