副社長は束縛ダーリン

慌てて両手で押さえる私。

今朝見たままのネイビースーツを素敵に着こなす悠馬さんは、企画部の課長に「今年も盛況ですね」と話しかけ、労いの言葉もかけていた。

来ないと思っていたので、着ぐるみの中で冷や汗をかいたけれど、私だとバレなければ問題ないと自分に言い聞かせ、なんとか心を落ち着かせた。

課長と談笑している彼から視線を逸らして前を向き、素知らぬふりを決め込むことにする。

これまで通りにユキ丸くんの役を続けようとしていたら、隣でユッコが笑いをこらえていることに気づいた。


『なんで笑うのよ』という思いで肘でつつくと、彼女が声を潜めて言う。


「朱梨って、やることなすこと、すべて裏目に出るよね。おもしろいわ」


悠馬さんと釣り合う、いい女になりたい私。

今回のことは、仕事のできる女になれるチャンスだと思って飛びついたのに、与えられたのはユキ丸くんの中でひたすらお尻を振るという残念な仕事。

こうなるまで至る私の思考を、ユッコには教えてあるので、『すべて裏目に出る』と、彼女はそんな感想を言ったのだろう。


否定はできないけれど、おもしろがらないで。

ユッコに文句を言おうとしたら、ブースの奥から出てきた悠馬さんが私たちの前に立つから、ギクリとして肩を揺らした。

まさか、ユッコとの会話を聞かれていないよね……?

< 232 / 377 >

この作品をシェア

pagetop