副社長は束縛ダーリン
慌てて両手を前に揃え、お尻を全力で振る私。
私は朱梨じゃなく、ユキ丸くんですよ。
喋ることのできない犬なんだから、話しかけないでくださいね……。
そう願ってユキ丸くんになりきっていたら、誰かが彼の後ろで足を止め、「悠馬」と呼びかけた。
注意を逸らしてくれた救世主に感謝するとともに、親しげな呼び方をする理由がものすごく気になった。
声が若い女性のものだったから。
悠馬さんは彼女に振り向き、私は彼のスーツの背中から覗き見るようにして、視界に女性の姿を捉えた。
え!? この人って……。
スラリとしたモデル体形で、目鼻立ちの整った大人美人。
夏らしい水色のスーツを素敵に着こなし、ダークブラウンの波打つ髪を上品に結わえている。
彼女は私がひと月前に辞めたフィットネスクラブの会員で、なぜか会うたびに挑んできて、私に敗北感を与え続けた、あの人だった。
悠馬さんの知り合いだったの……!?