副社長は束縛ダーリン
十時から開催されているイベントは、十二時近くになると、来場者が徐々に増えてきていた。
ユキヒラ食品のブースの前は絶え間なく人が行き来して、数人が立ち寄り、展示を見たり試食したりしている。
ユッコともうひとりの企業部の女子社員は、試食のコロッケを差し出して、笑顔で応対し、私も尻尾を振って仕事をしつつも、悠馬さんと望月さんを気にし続けていた。
賑わう会場内を、ふたりは会話しながらゆっくりと奥へ進んでいる。
人混みの中に見え隠れするふたりの姿から目を離せずにいたら、別室で揚げたコロッケを運んできた男性社員に「北さん、休憩時間だよ」と声をかけられた。
これから十分間の休憩が与えられ、私は控え室に戻って着ぐるみを脱ぐことができる。
さっきまで早くこの暑さから解放されたいと、時計ばかり見ていたというのに、「休憩してきます!」と言った私は、会場の出入口ではなく奥の方へと走り出した。
悠馬さんたちが気になって仕方ない。
正体をバラしたくない思いもあるのでふたりを邪魔するのではなく、こっそり会話だけでも盗み聞きできないものかと思い、着ぐるみのままで追っていた。