副社長は束縛ダーリン
ブースの間の通路を抜けた悠馬さんたちは、壁際を歩いている。
隅っこで立ち話でもするのかと思っていたら、ふたりは非常口と書かれたドアを開けて会場の外へ出てしまった。
人気のない場所に移動するなんて……。
ますます不安に駆られた私は、閉められたドアに飛びついて、すぐに開けようとする。
しかし、犬の手ではドアノブを回せない。
ユキ丸くんの手は、物を掴める作りになっていないのだ。
モコモコの丸い大きな両手で挟むようにして、ドアノブを回そうと悪戦苦闘すること数十秒。
おそらく同業他社と思われる見知らぬスーツ姿の男性が近づいてきて、代わりにドアを開けてくれた。
「ユキヒラ食品さんのユキ丸さん、どうぞ。涼みにいくんですか? 着ぐるみは大変ですね」
涼みにいくのではないけれど、「ワン」と答えてペコペコと頭を下げ、感謝の意を表した。
そして開けてくれたドアの向こうへと、足を一歩踏み出す。
ドアの外に出てしまってから、ふたりに見つかる心配に気づいて慌てたが、大きな頭を左右に振って周囲を確認しても、そこは無人の非常階段。
私が立っているのは三階の踊り場で、悠馬さんたちの話し声が小さく階段の下から聞こえていた。